Katsura's Cool Days

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help リーダーに追加 RSS リンスの時間

<<   作成日時 : 2008/08/08 06:16   >>

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「リンスの時間」

今でさえシャンプーの後のリンスは当たり前だけれど、いったいいつ頃から家庭でリンスを普通にするようになったのでしょうか。俺は現在49歳だけど、小学校低学年の頃にリンスをしていただろうか。インターネットでリンスの歴史などを調べれば、たぶん、日本におけるリンス登場の年が詳細に分かるかもしれないけど、今回の主旨とは少し異なるので、これを追及することはやめておきます。

俺が問題とするのはタイトルどおり「リンスの時間」なんです。どうでもいいような話なんだけど(笑)、お風呂かシャワーの際、髪を洗うなら、たいていはシャンプーをして、その後にリンスをするでしょう。俺の場合、リンスを髪全体につけた後、リンスが髪についた状態で身体を洗ったり、洗顔したり歯を磨いたりします。なぜなら、時間をおけばそれだけリンスの成分が毛髪に染み込んでいくような気がするんです。でもこれにはいつも迷います。男子49歳、あまりに情けなくて愚にもつかない悩みだけれど、いったいどの程度、リンスの時間をおけばいいものか……。

美容院などで洗髪してもらう時は、シャンプーを入念にされた後は、リンスは髪全体にさっさっとつけて、そしてあっという間に流されてしまいます。美容師さんは当然プロフェッショナルなので、やはりこの方法に従うべきなのか? でも家庭で使っているリンスの場合は違うのか? 美容師さんに聞いたこともないので、このリンスの時間は分からないままです。

何年も前、当時付き合っていた彼女に髪を洗ってもらったことがあります。俺が指を少し怪我していた時かなにかで、彼女はかえってそのことを楽しんでいるふうで、威勢良くやる気満々でシャンプーをしてくれました。ゴシゴシとシャンプーが終わった後、彼女は当たり前にリンスを自分の両手につけ、その柔らかい手で優しく俺の髪に馴染ませてくれました。俺は、その時間、浴室の温もりとシャンプーやリンスの匂いに包まれて、そして彼女の愛情を感じて夢見心地のような気分を味わっていました。ところがです。リンスを軽く髪の毛に馴染ませたと思ったら、その直後、間髪を容れず彼女はその返す手でシャワーを持ち、俺の髪についたリンスをサーッと洗い流しました。これは美容院での方法なのでしょう。しかし、その時に俺が思ったのは、ちょっと大袈裟ですが、なんだか心まで一気に流されてしまったような、そんな気分でした。

でも、俺にしてもそれが当たり前というように振る舞い、そのことについて何も触れず、愉快なシャンプーのひと時は何事もなく終わりました。当然のような顔で俺が何も言わなかったのは、底意では自分が古臭い人間に思えましたし、前時代的でもあり、黙したのは、たぶんそんな自分をカッコ悪いと感じ、そしてさらには、男の俺として、そんな塵芥のような、取るに足らないことをわずかでも気にしてしまったという内実を恥じ入ったからだと思います。

太宰治の短編小説「水仙」に次のような箇所があります。

「ひとつ、奥さん、」と僕は図に乗って、夫人へ盃をさした。「いかがです。」
「いただきません。」夫人は冷く答えた。それが、なんとも言えず、骨のずいに徹するくらいの冷厳な語調であった。底知れぬ軽蔑感が、そのたった一語に、こめられて在った。僕は、まいった。酔いもさめた。けれども苦笑して、
「あ、失礼。つい酔いすぎて。」と軽く言ってその場をごまかしたが、腸が煮えくりかえった。さらに一つ。僕は、もうそれ以上お酒を飲む気もせず、ごはんを食べる事にした。蜆汁(しじみじる)がおいしかった。せっせと貝の肉を箸(はし)でほじくり出して食べていたら、
「あら、」夫人は小さい驚きの声を挙げた。「そんなもの食べて、なんともありません?」無心な質問である。
 思わず箸とおわんを取り落しそうだった。この貝は、食べるものではなかったのだ。蜆汁は、ただその汁だけを飲むものらしい。貝は、ダシだ。貧しい者にとっては、この貝の肉だってなかなかおいしいものだが、上流の人たちは、この肉を、たいへん汚いものとして捨てるのだ。なるほど、蜆の肉は、お臍(へそ)みたいで醜悪だ。僕は、何も返事が出来なかった。無心な驚きの声であっただけに、手痛かった。ことさらに上品ぶって、そんな質問をするのなら、僕にも応答の仕様がある。けれども、その声は、全く本心からの純粋な驚きの声なのだから、僕は、まいった。なりあがり者の「流行作家」は、箸とおわんを持ったまま、うなだれて、何も言えない。涙が沸(わ)いて出た。あんな手ひどい恥辱を受けた事がなかった。それっきり僕は、草田の家へは行かない。草田の家だけでなく、その後は、他のお金持の家にも、なるべく行かない事にした。そうして僕は、意地になって、貧乏の薄汚い生活を続けた。

太宰治「水仙」より


彼女にリンスを洗い流されている時、前かがみで頭を垂れ、シャワーを浴びている頭で思い浮かべたのが「水仙」のこの部分でした。せっかくつけたリンスをすぐに流してしまうことをもったいないと感じる自分が、この小説の「僕」に重なり、リンスをつけた後、少しでも時間をおいてしまう自分が貧乏臭いようにも思えたのです。また、その時には考えませんでしたが、彼女はあの時、この奥さんと同じ無心だったのか、今となってはどちらでもいいことなのですが、リンスをする時にそんなことをふと思うことがあります。そして俺はリンスの時間をいつも躊躇します。俺はまだ当分、無心にはなれないようです。

リンスの時間、いったいどうしていますか?

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コメント(10件)

内 容 ニックネーム/日時
こんにちは。
「ブログ/太宰」で検索してこちらにお邪魔しました。

ぼくが知っている情報ではリンスの時間は短かくなければいけません。
というよりは、一般的に市販されているシャンプーもリンスも長時間皮膚につけることは危険だということです。リンスというのは簡単に言うとキューティクルの隙間をふさぐコーティング剤ですから、プロの美容師がそうしているのは肌のトラブルを避けるためという理由があるのです。
このことは洗剤メーカーも表示しているはずですが、自社の製品が危険だというイメージを避けるために目立たない表現になっているかもしれませんが、、「使用方法どおりに使えば一瞬で成分がいきわたり、効果は十分です。それ以上の長時間は肌の害になるので一刻も早く皮膚に残らないようによく洗い流してください」という意味です。

太宰の「水仙」の場面、心情がとてもよく重なる思い出ですね。
僕もわかる気がします。男は妙なところで傷つくもんですね。

僕は太宰が住んだ家をHPで紹介しています。よかったらのぞいてみてください。http://dazai-ya.shop-pro.jp/
daza
2008/08/08 13:28
初めまして♪
私は髪を染めてるので美容院で聞いたら「リンスを少しおいて流してください」って言われましたw
でも私じたい貧乏臭い一面があり前からおいて流してましたw
なんかもったいないんですよねw
あっでも皮膚にはつけないようにしてつけないといけないとも言われました!
でもそんなこと無理だしなぁ〜って…
先だけそうしてます!
荒れると大変ですから♪
rumi☆
2008/08/08 21:43
まったく、僕もKatsuraさんと同じ感覚です。
おいて髪の毛に浸透させてって思ってます。。
散髪屋もさっと流しますね。。
太宰治の「水仙」なんだか、いいですね。
心の動きがすごくわかるようです。
パオクン
2008/08/08 22:39
髪がだいぶ伸びて毛先が痛んできたので、
私は最近リンスからトリートメントに変えました☆
美容院のトリートメントと市販のものを使っていますが、
まず毛先になじませて余分に残った分を頭皮近くになじませて
みたいに使ってます。
石鹸カスみたいに油分が頭皮に油膜してしまうのがダメなんでしょうか?
私はあまり時間を置いてません。
とにかく、よく洗い流すことが重要だと教えてもらいました。
ちえ
2008/08/08 23:23
こんにちは。
私もすぐ流します。

美容学校の友人に聞いた話では、
トリートメントは髪に浸透するから長時間置くけど、
リンスは表面を保護するものだからすぐ流しても問題ない、
なのだそうです。

もちろん普段のケアは大事かと思いますが、
美容師さんには「こまめに毛先を切るのが大事」と言われました。
私がガサツなのを察してくれたのだと思います^^;

麻利子
2008/08/09 14:45
↓dazaさん
はじめまして、こんばんは。コメント、ありがとうございます。リンスのこと、丁寧に教えていただき、重ねてありがとうございます。dazaさんのHPも見に行きましたよ。俺は、高校〜大学の頃、いわゆる太宰治に熱中し傾倒していた頃があります。いわゆるハシカのようなものですが、そこを通ることは人生にとって大きな意味があると思います。太宰はすべて読んだと思いますが、この「水仙」は、俺にとって心に引っ掛かる部分が多い小説です。奥さんの絵を破り捨てる意味深な最後も好きです。
Katsura
2008/08/09 23:54
↓rumiさん
はじめまして、コメント、ありがとうございます。ですよね、リンスって、つけてすぐ流すって、なんかもったいないような気がしますよね。でも、そのほうが頭皮にとっていいのなら、これからはそうしようかと思います。あと、メロンやスイカも、いったいどこまで食べていいのか、それも躊躇します。高級なレストランなどでは、上品にして、皮までの部分をだいぶ残して食べるけどね(笑)。
Katsura
2008/08/10 00:01
↓パオクン
太宰の「水仙」って、なかなか面白いよ。もしよかったら読んでみてくださいね。次のURLで読めるよ。http://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/2272_20058.html
dazaさんへの返事でも書いたけど、ラストが意味深で、それもいい感じだよ。
Katsura
2008/08/10 00:05
↓ちえちゃん
そうかぁ、リンスとトリートメントって、違うものなんだね(笑)。俺は、いつも適当に、どちらかをその日の気分で使っていました。まぁ、いずれにしても頭皮には良くないようで、よく洗い流すことが大切なんですね。ありがとうね。
Katsura
2008/08/10 00:08
↓麻利子ちゃん
コメント、ありがとうね。とっても嬉しいです。でもって、リンスとトリートメントの違いも分かりました。俺は、どっちにしても時間をおいていましたが、これからは区別するようにします。そして、リンスの場合は“なるべく”素早く洗い流すようにします(笑)。なんせ、貧乏性なので、ついついリンスをつけたまま身体を洗ったりしちゃうんですよ。心を鬼にして、リンスに挑みます。
Katsura
2008/08/10 00:12

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